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2018年3月 3日 (土)

「OASYSの父」亡くなる…

 富士通のワードプロセッサを開発した神田泰典さんが,さる2月7日に亡くなられ,ご葬儀が2月15日に執り行われたとのことでした。79歳でした。

 富士通では,当初は汎用機の設計をされていたそうですが,日本で使うコンピュータは日本語が扱えなければならない,というところから,"JEF"と呼ばれる日本語処理拡張機構を開発,さらにそれと並行して,日本語ワードプロセッサ・OASYSを開発し,その中で日本語のかな文字をキーボード上に出現度を考慮しながら配置し,さらに「親指と他の指の2指なら同時に打鍵できる」という発見により「親指シフトキーボード」を開発されたのでした。

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 拙ブログ管理者は神田さんに3回お会いしたことがあります。

・1996年4月にニフティサーブのシスオペサミットがあり,それには私は参加しなかった(サブ・システムオペレータだったので)のだが,直後に行われたOASYS関係のフォーラムの会合に出席したとき(まだ閲覧可能な神田さんのwebに証拠写真が残っています…)。
・2001年6月に同じくシスオペサミットがあり,その時はサブシス(というかおこがましいので「お茶係」と称していた)でありながらFOAU1(OASYSユーザーフォーラム1)の代表となってしまい,それに参加したとき(その時は二言,三言ほど会話しました)。
・2012年5月に新宿にて有志が「同窓会」を開き,それに参加したとき。

 訃報を聞き,改めて神田さんの著書を入手しました。といってもすでに絶版となっており,Amazonの古書でどちらも1円で購入(送料の方が高い…)したのですが,
・コンピュータ 知的「道具」考(日本放送出版協会(今のNHK出版) 1985)
・わかる! ストリーミング(森出茂樹共著 オーム社 2002)
の2冊を購入しました。
 さすがに「…ストリーミング」の方はWindowsXP時代の話であり,ところどころ「パコソン」と誤記されていて「う~ん…」とうなってしまったのですが,「コンピュータ…」の方は,30年以上経過しても色あせない内容なのに大変驚きました。神田さんは,JEFやOASYSを開発するにあたり,日本語を改めて見直したり,あるいは,障がい児の発達について調べたりするなど,地道な研究を多方面にされていたことも,この本で知りました。

 確かに,今やOASYSは風前の灯火であり,親指シフト入力をされる人も多くはなく,新しいOSが登場するたびに,「親指シフトは大丈夫か」と,ユーザからは心配される状況に違いはありません。神田さんに関わるWikipediaの記述にも,「今日では親指シフトキーボードもOASYSもほとんど利用者はいない」とか,「最終的には役員になれずじまい」といったやや悪意を帯びた文章が見られる状況です(誰か書き換えていただけませんか?)。

 ただ,自分を振り返ってみると,「親指シフトキーボード」による入力を身につけたおかげで,ローマ字を頭の中でかなに変換する必要がなくなり,限られた脳みそのリソースを,文章全体を俯瞰して読みやすくする方に振り分けることができる(あ,仕事上の文書のことです。拙ブログは読みにくくて申し訳ありません)というメリットを感じています。大学を出るまでコンピュータやキーボードに触れたこともない人間が,いつの間にか職場でIT関係を任され,そこからさらに,違う職場に入ったときにその職場ならではのスキルを身につけたり,職場内の管理業務を仰せつかったりと,親指シフト入力で解放された脳みそのリソースを他に回すことができたメリットは,自分の職能開発の面から見ても多大な影響があったと思います。

 それから,最近特に思っていることは,確かにWikipediaの悪意ある記述の通り,OASYSの利用者は少なくなったけれど,OASYSで文書を作っていた経験が,その後マイクロソフト・Wordに移行しても(途中ロータス・AmiProなんてのも使っていたが)生かされている,ということです。
 OASYSは行間や文字間の設定が非常に厳格で,あらかじめ設定されたものしか使えません(現行のワープロソフト,OASYSV10でも同様)。一方,NECのワープロ「文豪」やキヤノンの「キヤノワード」,ワープロソフトならジャストシステムの「一太郎」では,行数や文字数を変更すれば自由に文字間や行間が変わる設定になっています。
 その結果どうなるかというと,他社のワープロや一太郎でそのような文書を作ると,行間が狭かったり,文字間が広すぎたりする読みにくいものになってしまいがち(私は一太郎は2007版までしか使っていないので,最近の一太郎については知りません。この点改善されていますか?)になるのです。

 これらのワープロ専用機や一太郎の名誉のために言っておくと,これらのワープロでも文字間や行間に気を配れば見栄えのよい文書が作れるはずなのですが,ユーザの側で文字間や行間について無頓着にさせてしまうような仕組みにしてしまったことが,これらのワープロの最大の「罪」のような気がして仕方がないのです。
 私の職場では,自分より職階が上の人が,見栄えも悪く文章も洗練されていない文書を平気で作っている現状があるのですが,自分はそれらの人より職階が「下」なので,指摘すらできないのがなんとももどかしいところです。

 悪く言われることの多いマイクロソフト・Wordですが,このワープロソフトも,一太郎に比べれば文字数や行数の設定が柔軟ではない,ということは,文字間や行間が極端に詰まったり広がりすぎたりすることがなく,実はOASYSに近い感じで文書作成ができているように思います。
 さらに言うならば,OASYSは搭載されるフォントに応じて行間隔,文字間隔が決め打ちとなっていて,それらの相乗効果により知らず知らずのうちに読みやすい文書が作れるようになっていたのだ,と今になって思います。

 そのバックボーンとなるものが,神田さんが30年前に著された「コンピュータ…」でも紹介された学際的な研究の蓄積であり,OASYSは単なる文書作成機ではなく,一種の「思想」や「哲学」であったことも分かります。他社のワープロ専用機はすでにそのブランド名も無くなって死屍累々の状況なのに対し,「思想」があったOASYSはいまだにソフトウェアとして市場に残っているところを見ても,それは明らかだと思うのです。

 神田さんのご冥福を心からお祈りいたします。

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