中島平太郎さん亡くなる
最近知ったのですが,「CDの父」と言われる中島平太郎さんが,昨年12月に亡くなられていたのだそうです。享年96歳。
東京工業大学を卒業した後,九州大学大学院(特別研究生)を経てNHKに入局。中島さんの著書,講談社ブルーバックスの「オーディオ小辞典」で知ったのですが,そこでデジタル録音機を開発します。「(放送用)ビデオレコーダーなら音声をデジタル記録するに足る帯域が確保できているので,音声をデジタル記録する回路を付加すればデジタル録音機が作れるだろう」というところからスタートしたところ,なかなか簡単にはいかなかった,ということだったのだそうです。
昭和46年にソニーに入り,ビデオデッキ「ベータマックス」に接続して使えるPCM録音機「PCM-1」を開発,さらに光ディスクに長けたオランダのフィリップスと,音声のデジタル記録のノウハウを持つソニーが昭和54年に共同開発を開始し,昭和57年に発売されたのが,「コンパクトディスク」とそのプレーヤーだったのです。
先の「オーディオ小辞典」は昭和56年2月の刊行,私は中学3年だった昭和56年の夏休み,今は「日本学生支援機構」という名前となった,旧日本育英会の奨学金予約のための面接を,自分が将来通うこととなる高等学校にて受けた帰り(12年ほど前に高等学校の奨学金は都道府県に移管されたとのこと)に本屋で購入しました。
レコードプレーヤ,アンプ,テープデッキ,スピーカーについてひとしきり解説がありました。
http://audiosharing.com/review/?p=23723
http://audiosharing.com/review/?p=23717
http://audiosharing.com/review/?p=23713
http://audiosharing.com/review/?p=23728
http://audiosharing.com/review/?p=23732
昭和51年にリリースされたソニーの大型スピーカー,SS-G7の広告シリーズで,中島さんが登場しています。ここに書かれている文章のほとんどは「オーディオ小辞典」で読んだもので,逆に言えば「オーディオ小辞典」の原稿の一部はこの広告シリーズから借用したものだったのかと,驚いたのがつい先日のことでした。
デジタルオーディオの話は大変興味深いものでした。その1年後,中島さんの本の通りにCDプレーヤーが各社から発売。しかし一番価格の安かったソニーCDP-101でさえ168,000円と,ビデオデッキ以上に高価な商品でした。
その2年後に49,800円という価格でポータブルCDプレーヤー,D-50が出たときにはかなり衝撃を受けたものでしたが,なにしろ高校3年生だったこともあり当然購入には至らず,実際にCDプレーヤを購入するのはさらに2年後の昭和61年末,実家のコンポが幅40cm弱という特異なサイズのため,そのラックに納めるにはこれしかなかったという,標準価格39,800円のソニーCDP-M30でした(残念ながらすぐにソニータイマーが発動した)。ようやくCDが自分の居場所で聞けるようになったのは平成に入り,パイオニアの格安レーザーディスクプレーヤー,CLD-100を購入してからでした。
「オーディオ小辞典」刊行後に中島さんはソニーの子会社だったアイワに移り社長に,しかし業績が好転せず昭和62年に社長を退任されます。私がアイワのモデムを購入したのはその4年後だったでしょうか。
しかし中島さんのその後は書き込みができるCD-Rの普及に尽力されます。
「オーディオ小辞典」で示された「未来」はすでに過去のものとなりました。アイワがソニーに吸収された平成14年,うちではアイワのCDラジカセを数千円で購入,CD再生機は恐ろしいほど安い値段から買えるようになりました。
PCM録音機も「オーディオ小辞典」の頃には,ポータブルのベータマックス・SL-F1と組んで使うPCM-F1が登場し,非常に憧れたのですが,いまやWAV音源はパソコンで簡単に録音でき,1万円足らずで購入できるICレコーダにもPCM録音機能がついているのでびっくりです。そしてそのICレコーダで録音した音源を使い,家庭でオーディオCDを作ることも,難しいことではなくなりました。ところが最近ではパソコン(特にノート型)からCD(というかDVD)ドライブがなくなってしまっていることも多くなっています。
しかし,今のようにデジタルデータが簡単に扱えるようになったのも,中島さんの尽力があればこそであり,中島さんがNHKでPCM録音に取り組んでいなければ,今のような時代の到来はもう少々遅れていたのではないかと思います。
少々遅くなったのですが,中島さんのご冥福をお祈りします。
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