A&D GX-Z5000(2)・ツインフィールドスーパーGXヘッドはアカイの良心だ。
まず,本機のキャプスタンはFGサーボによるダイレクトドライブ方式となっています。当然,私のカセットデッキ人生では初の「ダイレクトドライブ」でした。FGサーボというのは,発電機を取り付けてそこから電圧を取り出し,正常回転時の電圧と比較して,違いがあれば回転が正常になるよう調節する,という仕組みなのだそうです。
本機は高価なモデルではないので,クォーツロックなとどいう上等なものは搭載されていないのですが,それでもワウ・フラッターが0.027%と非常に優秀でした。
次に搭載ヘッド。録音・再生ヘッドは,アカイご自慢の「LC-OFCツインフィールドスーパーGXヘッド」という長い名称のものを使用しています。
名称が長いということはうんちくも長くなるということです。まず「GXヘッド」という部分から。基本的には,こいつは「フェライトヘッド」です。テープレコーダー用の磁気ヘッドの材料として一般的なのはニッケルと鉄の合金であるパーマロイ,そしてフェライトは,酸化鉄を主成分として焼き固められた,いわゆるセラミックスです。
それまでアカイのオープンリールデッキでは,「クロスフィールドヘッド」という,録音ヘッドと少しずらした位置に対向させたバイアス信号用の副ヘッドを搭載して,高域特性を改善しようという取り組みをしていたのですが,「GX」つまりグラス&クリスタルフェライトヘッドという,素材を新しくしたヘッドを1970年に搭載したのでした。
当時の広告を見ると,「磨耗がほとんどない」「ごみもつきにくい」「超高域までフラットな特性」「良好なSN比」「低域の『アバレ』がない」などと,よいことずくめのことが書かれていました。後の機種ではテープスピードを遅くしても音質が良好だということを謳っていました。
この「GXヘッド」はやがてカセットデッキにも搭載されるのですが,70年代末に登場したメタルテープに対応したものが「スーパーGXヘッド」になります。ソニーも「F&F」というフェライトヘッドを使っていたのが,センダストチップを取り付けた「S&F」ヘッドに変わったのに対し,アカイはフェライトヘッドを改良してメタル時代に対応した,ということになります。
一方でアカイは,早くからオートリバースのできるカセットデッキにも注力していました。アカイの場合結構高価格なモデルにもオートリバース機能を搭載していたのですが,3ヘッドで録再リバースを実現するのはなかなか難しく(アカイでは1983年に完成),せめて電気的特性だけでも3ヘッドに近づけよう,というのが「ツインフィールド」という仕組みです。
本来テープレコーダー用の磁気ヘッドは,録音用と再生用でヘッドギャップを変えた方が効率がよく,そのために高級テープデッキでは録音用ヘッドと再生用ヘッドが分かれた3ヘッドが採用されるのですが,録音と再生の両方を兼用したヘッドでは,その両方を適度に満たすギャップ間隔が選ばれるため,テープの性能を最大限に引き出せない問題がありました。それならば,1つのヘッドに4ミクロンの録音専用ギャップと1ミクロンの再生専用ギャップを設ければいいのではないか,というのが「ツインフィールドヘッド」ということになります。
ツインフィールドスーパーGXヘッドを持つ,1982年リリースのGX-F51(\69,800)のメタルテープによる-20dB±3dB時の周波数特性が20Hz~19kHz,その上位機であるスーパーGX による3ヘッドを持つGX-F71が20Hz~21kHzでしたので,3ヘッド機同等というわけにはいかないのですが,拙ブログで紹介したパイオニアの2ヘッドリバース機,CT-780だと30Hz~17.5kHzといった有り様でしたから,他社2ヘッド機よりははるかに優秀だった,ということがいえるかと思います。
そして最後の"LC-OFC"。日立電線(現在は日立金属に吸収合併)の開発した「線型結晶無酸素銅」という素材をヘッドコアの巻線に利用したもので,銅結晶を大きく成長させることにより信号伝達ロスが少なくできると言われており,ヘッドにこれを使うと伝送歪が低減される,というのが売りだったようです。
というわけで本機GX-Z5000の周波数特性はというと,-20dB±3dBで,
・ノーマルテープ 25Hz~17kHz
・ハイポジション 25Hz~18kHz
・メタルテープ 25Hz~20kHz
と,直接のご先祖にあたるGX-F51と比べると低域が若干数値が低くなっているものの,高域は20,000Hzまで改善されています。もっともこのLC-OFC,特許が認められず日立電線が訴訟を起こしてもそれが覆されることはなかったため,すでに製造が終了してしまっているとのことです。
本機のヘッドは,リバース機と共通に使われることを考えてか,ツインフィールドの録再ヘッドと,消去ヘッドが一体となったものが採用されています。3ヘッド機だったパイオニアのCT-770から乗り換えるとちょっとグレードダウンかなぁ,と思ったのですが,何度も拙ブログで書いている通りこの頃には就職前だったこともありFMエアチェックをすることもなくなってしまったので,実際そんなに問題になるようなことはありませんでした。
ソニーのTC-FX1010やパイオニアの録再リバース機であるCT-90R(CT-980の後継機)のように,同時アフターモニターのできない3ヘッド機がいくつか出現しており,このような機種が登場するたびに「一体何のために3ヘッドを採用しているのか」と思ったものでした。アカイのツインフィールドヘッドはこの点非常に潔く,アカイという会社の良心が伝わる技術だったと思います。
ヘッドの話だけで結構長くなってしまいました。操作性や音質については次回以降の話となります…。
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