A&D GX-Z5000(5)・こういう「真面目」な製品がなくなってしまった21世紀を憂う。
GX-Z5000の話も今日が最終回となります。いよいよ使い方と音質についてです。
GX-Z5000を購入した直後に就職。以前にも書いた通りで,この頃にはもうFMエアチェックをして編集するような余裕はなく,CDプレーヤー(ソニーCDP-M30)も実家に置いていたので,実家でCDからコピーしたテープを聴く(実家のカセットデッキはドルビー(ANRS)の ないKD-A150。ドルビーなしを承知で録音していたのだろうか…)位の使い方しかしていなかったかも知れません。
正採用になり,CDプレーヤとLDプレーヤの兼用でパイオニアのCLD-100を購入してからは,友人から借りてきたCDをカセットテープにコピーするのに使っていたような覚えがあります。要はあまり使っていなかったかも,ということです。
そしてその後,持っていたウォークマンが故障してしまい,(30年近く経過した今となっては細かいことが分からないが,おそらく)それならいっそポータブルCDにしてしまおうと思って,格安のソニー・ディスクマンを購入。お外で音楽を聴く用途はテープからCDに移ってしまったのでした。
というわけで死蔵状態が続いていたのですが,今から15年位前,嫁が仕事で使いたいからと,それまで録りためていたカセットテープのCD化を依頼されることが多くなり,そのためにしばしば使っていたところ,前述した本機の弱点である,オートテープセレクターの接触不良による切替えノイズが出るようになり,カセット上部に紙をはさむことで対応していたもののそれもめんどくさくなり,マニュアル式のテープセレクターを持つ中古のカセットデッキを物色中に,それならパイオニアの3分割デッキがいいじゃないか,ということで,8年前に書いた"CT-970"の話につながるというわけです。
肝心の音質ですが,よくも悪くも「真面目」でかっちりした感じの音でした。高域もよく出ていた,クリアな音質でした。ただ,私がパイオニアのリボンセンダストヘッドの音質に慣れていたのか,再び手にしたリボンセンダストヘッド機,パイオニアCT-970の音を聴くと,GX-Z5000の音は華やかさに欠ける印象もあり,それでだんだん使わなくなってしまった,というわけです。
その後パイオニアのCT-780を入手,正直言ってGX-Z5000よりボロいデッキなのですが,しかし腐っているはずのCT-780もリボンセンダストヘッド搭載で,高域は伸びないものの音質的には私の好みだったので,GX-Z5000はラックから外されることとなりました。
しばらくしてから動作を確認すると,カセットドアの動作が不調になっており再生不能に。ここ数年は静態保存状態となっていました。
今年になり,調子の悪かったCT-970をメンテに出した折りに,本機についてもメンテを依頼したのでした。結局,
・ヘッド周りの固着(アカイ機は前述のとおりテープを挿入すると他メーカー機の「再生ポーズ」状態となるため,ヘッドブロックが上がった状態でカセットドアを開けようとしたときにトラブルとなりやすい)
・カセットドア・ヘッドブロック動作用のモーターの交換
・テープセレクター部接点の清掃
・カセットドアスプリングの修復
その他諸々の調整を受けて帰ってきたのでした。
本機とは32年にわたりいろいろなことがあったのですが,昨今のカセットテープブームに一役買っていただければと思い,オークションに出品したところ,修理代金を大幅に下回る価格で落札され,「古いテープをデジタル化したい」と言われた落札者のもとで現在第二の人生を送っている,という状況です。
大幅な赤字決算には参ってしまったのですが,ダイレクトドライブキャプスタンによる比較的シンプルなメカニズム,普通に使っている分には長寿命なGXヘッドにより,往年のように,とはいかないまでも,他メーカーのデッキに比べれば,数年程度はまだ安心して使えるのではないかと思います。昔はこんなに真面目に作られた製品があったのだと,後世の人に知ってもらうだけでも出品した意味があったのではないかと考えています。
残念なことに,A&Dのこのクラスのデッキは本機のあと,あまり真面目ではない方向に進んでしまいます。
私がGX-Z5000を購入したその年にGX3ヘッド・クローズドループデュアルキャプスタン搭載となったGX-Z6100がリリースされます。上級機のように高さが13.7cmもある厚形ボディで,3ヘッド化により周波数特性も向上し,ワイヤレスリモコンも標準装備で69,800円に収まり,まさしくGX-Z5000の後継機にふさわしい機種でした。が,その「クローズドループデュアルキャプスタン」搭載のメカがアカイ製ではなく汎用のものだった(他メーカーでもこの頃は低価格機へのクローズドループデュアルキャプスタン搭載が相次いでいたらしいが…当時はオーディオへの興味が薄れ最近知った情報)ためか,ワウ・フラッターは0.035%とGX-Z5000より悪化していました。もっともクローズドループデュアルキャプスタンはヘッドタッチを改善する効果もあるので,ワウ・フラッターが低いことが即悪い評価につながるわけでもないのでしょうが。
その2年後の1991年には,GX-Z6100の直接の後継としてGX-Z6300EVが,そしてさらにその廉価版としてGX-Z5300が3ヘッド,クローズドループデュアルキャプスタン搭載でありながらなんと49,800円という低価格でリリースされます。ただしGX-Z5300のヘッドは"GX"型番なのになんとパーマロイヘッドに格下げされ(それならCS-Z5300という形式名にすべきだった),しかもワウ・フラッターは上位機Z6300EVともに0.045%と,さらに悪化してしまったのでした。パーマロイヘッドでは音質的にもこれといった特徴のない仕上がりになってしまったはずであり,結局これがA&D最後のカセットデッキとなってしまい,三菱電機との協業も終了して"A&D"ブランドは消滅。赤井電機は山水電気同様オーディオ業界から撤退して実態のない会社へと変質し,2000年に倒産して"AKAI"というブランドは今は海外の他社が使用しているという有り様です。
そもそもかつての日本のオーディオブームは,ベトナム戦争に従軍したアメリカの若手軍人が,「明日は死ぬかも知れない」という暗い気持ちを鼓舞するために多数,戦地に近い日本製のオーディオ機器を買い求め,宿舎の自分の部屋に置いた,というのが発端であり(https://ishinolab.net/modules/doc_serial/audio_history_japan/serial001_045.html),その後ハイファイビデオやビデオディスクの出現でブームが一時的に延長こそしたものの,オーディオ需要が下火になってしまった現在,ソニーのようになんとかデジタル化に間に合ったメーカーはともかく,それ以外の名門オーディオメーカーはちょうどこの1991年ごろが,ベトナム戦争の遺産を食いつぶしたところだったのではなかったか,という印象があります。
2020年代の今,デジタル化の進展により「ちょちょいのちょい」で作られる製品のなんと多いことか。GX-Z5000というカセットデッキは,真面目だった頃の日本を象徴している製品だったのかも知れません。
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