三菱自動車の「軽」を振り返る(11)
本連載が始まったのは2016年6月26日のこと。気がついたらもう5年も経過していました。
話が少しずつ進み昭和51年ごろの話をしています。私としては,だいぶん進んだなぁ,という印象があるのですが,ここから現在まではまだ45年分も話が残っているという,気が遠くなりそうな状況ではあります。
それでも,ぼちぼちと進めていきましょう。軽自動車の新規格化,商用車の話です。
三菱の新規格車「ミニキャブ5」。「ミニカ5」と同時販売かと思っていたのですが,Wikipediaによるとミニカ5が昭和51年の4月,ミニキャブ5が同5月となっています。ミニキャブ5のCMキャラクターは三菱自動車水島工場と同じ岡山にゆかりのあるオリンピアン,故木原光知子さんで,そう言えば木原さんの出演したミニキャブ5のCMは4月ではなく5月に初めて見たかなぁ,という覚えもあり,やはり同時販売ではなかったのでしょう。
ミニキャブ5の話は少し措きます。まず他メーカーの動向を見ていきます。
スバルのサンバーは3代目,「剛力サンバー」のまま,まず昭和51年2月に4サイクル化。おそらくここで50年商用車排出ガス規制をクリアし,360ccまでのエンジン搭載車しか運転できない旧軽免許ユーザに対応したのでしょう。そして5月,この360cc版ボディのまま,500ccエンジンに換装して「サンバー5」をリリースします。
ダイハツも,新開発の4サイクル550ccエンジンを,従来の4代目360ccボディに搭載して,「ハイゼット550」として売り出します。と同時に,従来の2サイクル360ccエンジン車も,50年商用車排出ガス規制に対応させて継続販売,360ccと550ccの2本立てとします。
スズキは,5代目360ccキャリイのマイナーチェンジでまず50年商用車排出ガス規制に対応,次いでそのボディに,2サイクル3気筒550ccのエンジンを載せ,「キャリイ55」として発売します。スズキの360cc2サイクルエンジンは,乗用車用の横置きエンジンは3気筒だったものの,商用車用の縦置きエンジンはこれまで2気筒でした。これを550cc化に合わせて3気筒にしたのです。さらに,乗用車版では当時450ccまでしかエンジンを拡大できなかったところ,商用車版ではダイハツのようにフル規格550ccで登場させたのでした。
ここで商用車向けの排気ガスの規制値を見ておきます。昭和48年規制については乗用車と同じなのですが,前回の記事からかなり時間が経っているので改めて載せておくと,それぞれ1kmあたりで,一酸化炭素が26g,炭化水素が4サイクルで3.8g,2サイクルで22.5g,窒素酸化物が4サイクルで3g,2サイクルで0.5gでした。
これが商用車向けの50年規制になると,一酸化炭素は17g,炭化水素は4サイクルで2.70g,2サイクルで15gに,窒素酸化物は4サイクル軽自動車で2.3g(普通車は3gだった),2サイクルで0.5gとなっていました。
乗用車の50年規制と比べると,一酸化炭素で約6倍,炭化水素で4サイクル約10倍,2サイクルで約3倍,窒素酸化物で4サイクル約1.5倍(2サイクルは変わらず。というか2サイクルの規制値はこのあとの53年規制値並み)の排出量を認めるという大甘なもので,当然商用車用の排気対策デバイスには本格的なものを導入する必要はありませんでした。だからスズキは乗用車用とは違い商用車用にはフル規格の2サイクル550ccエンジンが採用でき,マツダも2サイクルエンジンのままのポーターキャブを50年規制に対応できたというわけ(この段階では旧規格のまま)です。
旧規格のまま昭和51年をやり過ごしたホンダとマツダを除き,スズキ,ダイハツ,スバルとも,キャブオーバー型の商用車はいずれも旧規格のボディのまま新規格車をリリースすることになったのでした。さて三菱の「ミニキャブ5」はどうだったのか。
三菱のエンジンは前回紹介の通り,当時の三菱の製造設備の兼ね合いによりフル規格ではない471ccの4サイクルエンジンでした。そしてボディも,残念ながら旧規格のままでリリースされました。しかしここで,バンがようやくモデルチェンジし,スライドドアを採用されてようやく他社に追いつくことができたのでした。
で,実は私,他社がそうだったから,この「ミニキャブ5」も,ずうっと,2代目ミニキャブEL/Wのキャリーオーバーだと,ずうっと思っていたのでした。しかし,このミニキャブ5の型式は"H-L012"型。その前のミニキャブWの形式が"T131"型なので,全然違う命名規則で付けられています。よく見れば車内のインパネも大幅に異なります。ということは,他社とは違い,この「ミニキャブ5」はフルモデルチェンジを行ったニューモデルだった,ということになります。
しかし謎なのは,どうしてボディサイズが旧規格のまま,中途半端に「フルモデルチェンジ」を行ったのか,ということです。先に言ってしまうと,翌年早々,このミニキャブ5は,フル規格化した「ミニキャブワイド55」に切り替わってしまうのです。なぜこの昭和51年5月の段階でボディだけでもフル規格化できなかったのか。
数年前,webを眺めていると360ccのまま4サイクル化された「ミニキャブ4」という車種が存在していた,ということを紹介するページがありました(今は削除されているようです)。このミニキャブ4のリリースが昭和50年ごろだとすると私は小学3年生。小学3年生の言うことなので信じてもらっては困るのですが,しかし「ミニキャブ4」というクルマが登場した記憶は当時の私にはなかった。三菱自動車のwebページにもそのような記述はありませんし,Wikipediaにも,ミニキャブWとミニキャブ5の間に「ミニキャブ4」があった,などという記述はありません。
話は変わって。昔々,「法庫」という名前のwebサイトがあり,いろいろな法律や政令を収めていました。これが管理者の死去により平成28年に閉鎖されたのでした。
そこのwebサイトに,「自動車の型式を指定した件」を数年間まとめたものが公開されており,そこで,ミニキャブWでもない,ミニキャブ5でもない,全く別の型式のクルマが書かれていたのを見つけてしまったのです。
ところが上記の通りサイト閉鎖により見られなかったところ,インターネットアーカイブを利用して再びみることができたのです(現在,別の管理者さんが運営されている後継の「法庫2」ではこの情報は収録されていない模様)。
|番号 型式 製造者 指定 取消
|2908 三菱T131 三菱自動車工業株式会社 - 昭51・109
|2909 三菱T131V 三菱自動車工業株式会社 - 昭51・109
|2969 三菱LT30V 三菱自動車工業株式会社 - 昭51・109
|3237 三菱H-L011P 三菱自動車工業株式会社 昭50・511 昭51・427
|3238 三菱H-L011PV 三菱自動車工業株式会社 昭50・511 昭51・427
|3362 三菱H-L012P 三菱自動車工業株式会社 昭51・180 昭52・476
|3363 三菱H-L012PV 三菱自動車工業株式会社 昭51・180 昭52・476
|3514 三菱H-L013P 三菱自動車工業株式会社 昭52・050 昭55・086
|3515 三菱H-L013PV 三菱自動車工業株式会社 昭52・050 昭55・086
2908・2909がミニキャブW,2969がミニキャブELとして売られた初代ミニキャブバン,3362・3363が今話題としているミニキャブ5,3514・3515が次に話題とするミニキャブワイド55です。そうすると,今取り上げなかった3237と3238の存在は一体何なのか。
想像したことをまとめると次の通りです。
・昭和50年内に三菱は,特に旧態化していた軽キャブオーバーバンをなんとかしたかったため,一挙に水冷化・4サイクル化・低公害化・スライドドア(バン)の採用を図った,「ミニキャブ4」を開発し,型式も取得して,販売直前まで準備を進めていたのではないか。
・ところが,低排気量4サイクルエンジン独特の,低回転域での粘りのなさが,2ストユーザーを多く抱える三菱では特に問題となったのではないか。
・エンジンの大型化が471ccにとどまるため,当初から昭和51年に旧規格ボディのまま「ミニキャブ5」にマイナーチェンジする予定としていたのだが,上記のような事情から「ミニキャブ4」をキャンセルし当面ミニキャブW/ELを販売,そして翌年に,ボディ旧規格の「ミニキャブ5」をニューモデルとして販売するに至ったのではないか。
・販売されなかった「ミニキャブ4」については,昭和51年に型式指定の取り消しを届け出た。
おそらく正しい情報は今後ともどこからも流されないことでしょう。ただ,型式指定まで受けたのにその車両が世の中に出回っていないことと,なぜミニキャブ5はニューモデルなのに旧規格のまま販売されたのかという謎は,上記の想像で解けるのではないか,という気がしています。正しい情報をお持ちの方は訂正をしますのでどうぞお知らせください。
なお軽のボンネットバンの事情はどうだったのか。三菱は2代目ミニカバンにそのまま471ccエンジンを載せ「ミニカ5バン」を発売。スバルは乗用車同様拡幅したボディに490ccエンジンを載せた「レックス5バン」を発売。スズキはFR方式のフロンテハッチに2サイクル3気筒550ccエンジンを載せ,しかしそのままでは旧ボディに納まらないため,エンジンルームを延長し前のフェンダーを広げてワイドトレッドとした(この事実をごく最近知った)「フロンテハッチ55」を発売。
ダイハツはよく覚えていないです。おそらく旧規格ボディに550ccエンジンを載せて「フェローMAX550バン」を出したのではないでしょうか。マツダは360ccのポーターを2サイクルエンジンのまま低公害化。ポーターとしてはこれが最終モデルとなりました。
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