「テレマー」,皆さん覚えていますか?
先日,こんなものをオークションで入手しました。
これは「テレマー」と名付けられていました。3分ごとに目盛りのついた,ぜんまい式の15分タイマーです。
使い方としては,黒いダイヤルを予め「0」のところに右回しで戻しておき(これでぜんまいがセットされる),白い左側の"START"ボタンを押します。そうすると「カチカチカチカチ」という音がし始めてタイマーが動き出します。計時を終わる時は白い右側の"STOP"ボタンを押すと「カチカチ」音が止まります。
先ほど書いたように目盛りは3分ごとに区切られているので,細かい時間は分かりません。途中経過や時間の終わりを知らせるようなベル音のようなものもありません。
果たして,何のためにこんなタイマーがあったのでしょうか。
日本電信電話公社の施設局が出していた昭和48年11月号の「電気通信施設」という雑誌によると,
・以前の電話は,市内(加入区域内)であれば1回(度数)7円で何時間でも通話ができたのに,市外通話はすべて時間により課金されていたので,市内通話と市外通話で料金の差が甚しかった。
・その「加入区域」が,東京23区だと直径30kmにもわたるエリアだったのに対し,最小の加入区域は直径3km程度,平均で7kmほどであり,市内通話のできる相手先の数が,大都市と地方で大きく違っていた。
・交通機関の発達や市町村合併等により生活圏や経済圏が拡大しており,小さいままの加入区域では支障が出るようになった。
という問題を解決するため,「広域時分制」を導入することになったのでした。具体的には,
・単位料金区域(MA)を設定し,その区域内であれば隣接する市町村で市外局番を回す必要がある通話でも市内通話(区域内通話)の扱いとする。
・区域内通話の料金は3分ごとに7円(当時)とする。
・隣接する区域間の通話は80秒ごとに7円とする。
・MA中心局間の距離が20kmまでの場合も隣接区域内通話の料金と同じとする。
ということが決められました。ですから地方では3分7円で通話できる相手先が増えるのでトータルの電話料金は値下がりとなり,逆に大都市ではつなぎ放題だった市内通話が3分7円となるのでトータルの電話料金が値上がりとなる,ということとなったのでした(朝日新聞連載の「サザエさん」でもネタとして取り上げられたことがある)。
この頃ファクシミリが公衆回線を介して使うことができるようになり(G1規格。A4原稿を6分で送る),データ通信も公衆回線で使えるようになると,それまでの度数制ではまさしく「使い放題」状態となってしまうため,そうさせないためにも「広域時分制」を導入する必要があったのだといいます(その約20年後,パソコン通信が導入され月に1万円も電話代を払うような奴も現れた←私のこと)。
そもそも施設に余裕がなく,電話を架設することが難しかった当時,近所の電話のある家に行って電話をかけることが当たり前に行われていました。「広域時分制」が導入される前までは,市内通話をかける場合7円を電話を持っている人に払えばよかった(市外通話の場合どうするのかというと,通話後に交換手が料金を知らせる「100番通話」という仕組みがあった)のですが,3分ごとに7円がかかるとなるとどうすればいいのか,というわけで,この「テレマー」が登場したというわけです。3分ごとに目盛りが切られている(最大15分)というのはそのためで,1目盛ごとに7円をいただくようにすればよい,というわけです。
広域時分制は全国で同時に始まった,わけではなく,機器導入や改修の関係から徐々に進められたようです。先の「電気通信施設」という雑誌によると,最初に導入されたのは昭和47年11月12日のことで,山梨・群馬・三重・滋賀・鳥取・佐賀・青森の全域と,長野・福井・兵庫・香川・福岡・北海道の一部で始まったとのことです。
当時住んでいた兵庫県の西脇では,昭和48年3月25日に実施されました。このあたりのことは拙webページにも書いているのですが,この「『テレマー』がもらえる」という案内が電話局から送られ,友達の家に次々この「テレマー」が置かれるようになり,そして我が家でも,父親が電話局に行ってこの「テレマー」をもらってきたのがこの頃でした。私が小学校に入るか入らないか,という頃だったと思うので,「昭和48年3月」開始という記録を見て,自分の記憶の裏付けができた,という感じがしています。
参考までに,現在住んでいる岡山は昭和48年3月4日実施となっており,東京03区域は同年3月11日,大阪06区域は同年5月20日,一番最後は,前年に日本に復帰した沖縄県の同年8月26日となっていました。
この雑誌の「座談会」によると,当時の電電公社の業務管理局の人が,「テレマーとピンクに始まりピンクに振り回されピンクで終わった」と振り返られていました。この「テレマー」配布も大変だったけど,実際には,喫茶店やアパートに取り付けられ,市内通話での使用を前提とした旧式のピンク電話(10円玉1枚しか投入できなかった)の扱いが悩ましかったのだろうかと思います(10円玉6枚が投入できる大型のピンク電話も開発されたが,特に大都市圏では取り替えがなかなか進まず,旧来のピンク電話に装着する「接続形時分計」も開発した)。
ところがこの「テレマー」,結構大きな「カチカチ」音がします。電話のそばでこれを使うと結構耳障りで,拙webページにも書いている通り,当時よく食べていた「カップヌードル」を作るときに時間を計るのに使うしかなかった状況でした。結局私のおもちゃ箱に入ることとなり,翌年の引越しで農家の納屋の2階に仮住まいすることとなり,おもちゃ箱の中身をそっくりいとこにあげてしまったので,50年近くにわたり,実物の「テレマー」を見ることはありませんでした。
そんな「テレマー」なのですが,ただで配られていただけではなく,当時はテレビコマーシャルも流れていたので,一部は商品としても流通していたものと思われます。しかしこの「カチカチ」音の大きさでも分かる通り完成度は高くなく,「商品」としてはあまり売れなかったのではないか,とも思います。
うちが「テレマー」をもらってから50年。いよいよ来年は,固定電話がメタルIP化され,国内どこに電話をかけても通話料金は3分で9.35円,という時代がやってきます。ちなみにNTT西日本の場合,真っ先にメタルIP化されるのは来年1月2日に鳥取県からなのだそうです。歴史は繰り返しますね。
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